日本銀行は2023年9月22日の金融政策決定会合で今後の金融行政について議論し、金融緩和の維持方針を定めました。金融緩和の修正によって前回の金融政策決定会合では長期金利の上限を0.5%から1%に引き上げ、金融緩和を緩める可能性が示唆されました。
しかし、9月の会合では現状維持の決定をしています。金融緩和の維持がなぜ続けられているのでしょうか。
この記事では今回の会合において決定された金融政策について概要と植田総裁の記者会見における見解をまとめました。規制緩和の維持を受けて、今後の可能性を踏まえた投資の視点も紹介します。
目次
日本銀行の規制緩和は維持方針
日本銀行は2023年9月22日に開催された金融政策決定会合で、金融緩和政策の維持を全員一致で決定しました。今後の可能性を考えるために、まずはこの会合における決定と植田総裁の見解について概要を見ていきましょう。
現行の金融政策の概要
金融政策決定会合ではYCC(長短金利操作、イールドカーブ・コントロール)を柱とするする金融緩和を進める方向性で合意しました。
概要としては以下の政策を今までと同様に進めていくことが決定されています。
- ・物価目標2%を目指す
- ・短期金利を-0.1%程度のマイナス金利に維持する
- ・長期金利の上限を1%に据え置きして0%程度に誘導する方針
- ・資産の買い入れを進める
マイナス金利を維持しながら、YCCによる介入を進めて物価上昇率を2%まで抑え込む金融政策を進めていく方針が立てられています。国による資産の買い入れを進める方針も維持しています。
長期金利の上限引き上げの結果については0.7%程度の長期金利になっていて、想定されていた範囲に収まっていることを政府関係者がコメントしています。
植田総裁による記者会見の要点
植田総裁は今回の金融政策決定会合の決定についてどのような見解を持っているのでしょうか。会合後の植田総裁の記者会見からわかる日本銀行の基本方針について、要点を絞って紹介します。
物価目標の持続的安定的な実現を目指す
日本銀行は2%の物価目標の持続的かつ安定的な実現のための金融政策を進める方針を維持することが示されました。インフレが急速に進んでいる状況の打開について、一時的な対策でしのぐのではなく、今後ずっと物価目標を維持できるように慎重に対応する姿勢が示されています。
植田総裁は物価が今後、上振れするという見通しを立てています。最近ではガソリンなどの燃料の価格高騰が大きな問題の一つです。
レギュラー | ハイオク | |
---|---|---|
2023年10月9日時点 | 175.0円 | 186.1円 |
2018年10月 | 156.1円 | 167.1円 |
政府が進めるガソリン価格抑制対応も延長されました。物価の変動要因は多いため、日本銀行としては情勢を鑑みながら機動的かつ粘り強く金融緩和による物価目標の達成を目指す考えです。
先行きが不透明で不確実性が極めて大きい
日本銀行では物価の先行きは不透明な状況が続いていて、不確定性が極めて大きいという認識を持っています。国内外の動向によって大きく左右されることに加え、企業の賃上げの進め方によっても変わることから予想が難しい状況が続いているのは確かです。
企業の賃金改定や価格設定について一定の動きが見られているものの、本格化しているわけではないという見解です。そのため、現状においてYCCを取りやめ、マイナス金利から切り替えることはせずに金融政策の維持を決定しています。
インフレによる家計への影響に懸念
インフレによって各家庭の経済面について影響が出ていることについても植田総裁はコメントをしています。賃金の上昇率がマイナスを示している中でインフレが進んでいる状況があり、家計が厳しい状況に陥っていることに言及していました。
ただ、長期金利の上限の引き上げに伴う住宅ローンの影響については限定的としています。住宅ローンの固定金利の上昇が起こることは確かです。
ただ、住宅ローン金利は経済物価情勢による影響も大きいため、今回の政策決定だけ大きな金利変動が起こるかは判断できないという見解です。固定金利での利用者が高いわけではないため、全体としての影響は小さいとも言及しています。
植田総裁はこのようなインフレの継続性の判断について、賃金の上昇が最重要な要素の一つともコメントしていました。賃上げの実現によって家計へのインフレの影響も改善し、安定した社会を築くことにつながると考えられるでしょう。
物価目標の達成に伴うYCC撤退とマイナス金利の修正を検討
日本銀行のYCC撤退やマイナス金利政策の修正については、物価目標の持続的な実現が見通せるようになった時点で検討する方向性を示しています。
賃上げがおこなわれてインフレ傾向が弱まったと判断できた際には金融政策の緩和から引き締めに転じる可能性も示唆されています。現時点では物価の先行きが読めない状況なので、具体的な施策についてはコメントを控えていました。
決め打ちでYCCやマイナス金利政策の修正について明言するよりも、社会情勢の変化に応じた機敏な判断を重視しています。
金融緩和による今後の3つの可能性と投資の視点
今後も金融緩和が進められていく方向性が示されたことを受けて、投資ではどのような可能性を考えていく必要があるのでしょうか。
今後の金融政策として以下の3つの可能性が考えられます。
- 1.2%の物価目標が達成されてマイナス金利が修正される
- 2.2%の物価目標に近づいて金融政策が変更される
- 3.当面は現行の金融緩和の維持が続く
ここでは今回の金融政策決定の結果を踏まえて、それぞれの可能性の信憑性と投資の視点を解説します。
①:2%の物価目標が達成されてマイナス金利が修正される
まず、日本銀行のマイナス金利政策などの影響によって2%の物価目標の持続的かつ安定的な実現が達成される可能性を考えられます。日本銀行にとって最も理想的な流れですが、昨今の金融政策の効果が芳しくないことを考慮すると可能性は低いでしょう。
もし物価目標が達成されたら、マイナス金利を解除する修正が入ると予想されます。
すると、金利上昇への対策が必要で、現金の価値が高くなることを受けて現物よりも通貨を中心とする投資のポートフォリオに変更する方が良いでしょう。
市場が乱れるリスクが高いため、金や銀などの現物資産の市場の大きな動きを狙う投資のチャンスも生まれます。
②:2%の物価目標に近づいて金融政策が変更される
金融緩和の継続によって2%の物価目標に近づく可能性があります。この時点で金融政策の変更が始められることもあり得る展開でしょう。
日本では保守的な金融政策が進められる傾向があります。早期の見極めで物価目標が達成されたと発表されても段階的な金融引き締めが進められていくでしょう。
日本銀行の見解によっては経済が大きく動き、インフレ率も2%からずれるリスクがあります。
明確な形で物価目標が達成されないまま、金融政策が変更されたときには市場の動揺を招くことが予想されます。市場の乱れを狙った投資で利益を上げられる可能性があるでしょう。
③:当面は現行の金融緩和の維持が続く
少なくとも当面は物価目標を達成できず、賃上げも進まない状況が続くことも考えられます。すると現状では日本銀行は金融緩和を維持し続ける方針です。
金融緩和が当面続く場合にはインフレに合わせた投資が重要です。通貨よりも現物資産を重視して投資のポートフォリオを整えることで資産形成をしやすくなります。
金融緩和が長引くなら、長期投資に強い資産運用が適切です。金のように持続的な価値上昇を見込めるモノの資産を運用するのが効果的です。
まとめ
日本銀行は金融緩和の維持を継続することを決定しました。現状は先行きが見えないという見解で、物価上昇率を2%に安定させることに注力する目標を掲げています。
今後の物価は政府や日本銀行の介入だけでなく、企業の賃上げによる影響も受けて変わっていきます。投資では不安定な情勢を鑑みて、不変的な価値を持つ資産を運用するのが安心です。
日本銀行の金融政策の変更の可能性も考えて、流動性のあるモノとしての資産を中心に運用することが安全性の高い運用につながるでしょう。
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