2023/06/20

米国の債務上限引き上げによって金融不安は解消されるのか

米国の債務上限引き上げによって金融不安は解消されるのか

米国の債務上限が再燃して大きな話題になりましたが、財政責任法案が可決されたことによって問題は収束する方向に進みました。債務上限問題は今になって始まったことではなく、20世紀からずっと金融市場を混乱させてきた歴史があります。

米国の債務上限問題についての理解は資産を守る上で欠かせません。米国の債務上限問題は金融不安に直結します。

この記事ではよく話題に上った債務上限引き上げについても取り上げながら、米国の債務上限問題の詳細とリスクを詳しく紹介します。

米国の債務上限問題とは

2023年5月に話題になった米国の債務上限問題は収束の方向に向かいました。債務について何か問題があって金融に大きな影響を与えるリスクがあることはわかった方が多いでしょう。

ただ、そもそも債務上限問題とは何なのかはよく知らない方もいるかもしれません。ここではまず米国の債務上限問題について解説します。

米国の債務上限とは

米国では国が負う債務について上限を定めています。国債を発行して財源を獲得するのは国家経営の基本的な方法です。国債を発行したら国は債務を負い、国債を保有している人に対して利息を支払い、期日になったら全額を返済しなければなりません。

国にとって国債の発行はすぐに使えるキャッシュを手に入れる上で効果的ですが、発行すればするほど利子支払いによる国庫負担が大きくなります。そのため、米国では債務上限を定めて、一定以上の債務を抱えられないようにしています。

日本でも国庫で多額の債務を負っていることが問題視されることがあります。しかし、債務上限について問題になったことはありません。

日本だけでなく他の主要先進国では債務上限を定めていることは稀です。米国は世界に影響力がある主要国の中でも数少ない例外です。

米国の債務上限は引き上げられてきた

米国の債務上限は制度が1917年に導入された後、繰り返し引き上げられてきました。最近30年では1995年、2011年の2回があり、2013年にも引き上げるかどうかが大きな議論になっています。2011年12月の引き上げが現状としては最後で、31兆4000億ドルが現状の債務上限額です。

債務上限を引き上げるのなら上限を決めておく必要はないという議論もあります。米国では民主党・共和党の二大政党制を取っているので、「債務上限の引き上げは政策に問題がある」と野党側に指摘される原因になるのは明らかでしょう。

そのため、債務上限問題が浮上すると、毎回のように与党・野党の論争があって金融不安が世界中に広がっています。

米国の債務不履行=デフォルトのリスク

米国に債務上限があるのは債務不履行、つまりデフォルトになるリスクがあるのが大きな問題です。2013年と2015年には債務上限の適用を停止することで一時しのぎの対処をしたことによって乗り越えてきました。

もしデフォルトが起こったとしたら、米国の世界的な地位が危ぶまれるだけでなく、国民の反発も起こって大混乱になります。

ポイント

世界の基軸通貨は米ドルなので、資産についても世界中で不安が生まれるのは明らかです。

米国ではデフォルトを避けるために支出を減らして対応することもできないわけではありません。年金基金への投資や各種保障制度・保険制度の支払いを止める打開策もあるのは確かです。

ただ、このような措置を取るだけでも米国だけでなく世界に動揺が走り、社会介在に大きな影響があります。国民からの支持も受けられなくなるリスクが高いため、政府としては回避しなければならない課題です。

【2023年5月・6月】財政責任法案がスピード可決

2023年5月・6月の債務上限問題は、2025年1月1日まで政府の債務借入残高の上限を適用停止する財務責任法案のスピード可決によって乗り越えられました。2013年、2015年のときと同様に、債務上限の適用を停止して一時しのぎを実現したと言えます。

米国で債務上限問題が浮上すると、与党・野党の対立が大きなハードルになってスムーズに解決の方向に進まない傾向がありました。しかし、この財務責任法案については下院で5月31日に可決された後、6月1日に上院ですぐに可決されています。

下院での反対票は117票中で共和党が71票、民主党が46票、上院では共和党が31票、民主党が5票でした。野党の共和党からの反発があったのは確かです。しかし、迅速な可決に至ったことに対して米国バイデン大統領も超党派の勝利と絶賛しています。

債務上限は引き上げられたわけではない

何度も再燃している米国の債務上限問題は解決したわけではありません。債務上限は引き上げられたわけでも、撤廃されたわけでもないからです。

債務上限の存在の不合理性は昔から指摘があります。議会で承認された予算によって政策を進める際に、国債の発行による資金調達が必要になったとしたら、債務上限を引き上げることを見越していたと考えられるからです。

国際通貨基金も2023年5月26日に債務上限を引き上げるシステムを作り上げてデフォルト回避が可能な安定措置をすべきという指摘の声明を出しています。

ポイント

今後も米国の債務上限問題は再燃することを想定しておく必要があるでしょう。

米国の債務上限問題がもたらすリスク

米国の債務上限問題によって金融や投資にもたらされるリスクは挙げていくときりがありません。近年の動向として特に注意した方が良い点を紹介します。

デフォルトはデジタルバンクランを引き起こす

米国のデフォルトがもし起こったとしたら、デジタルバンクランを引き起こすリスクがあります。デジタル時代になってスマートフォンやパソコンで簡単に資金の移動や投資の取引ができるようになりました。米国でデフォルトが起こると金融不安が起こることは間違いありません。

デジタルバンクランとは

SNSなどネットを通じて情報が拡散したうえ、アプリなどネットを通じて預金も瞬時に引き出すデジタル時代のとりつけ騒ぎのこと。

デフォルトが引き金になって多くの人が銀行からお金を引き出したら、銀行が破綻することになります。オンラインバンキングの時代になって窓口対応よりもスピーディーな取引ができるようになり、銀行破綻のリスクが高くなっています。

ファンド解約が進むリスクがある

デジタルバンクランと同様に投資取引もデジタル化が進んでいます。オンライン投資ではすぐに取引ができるので、米国のデフォルトによって米国関連のファンドの解約が一気に進むリスクがあります。

ポイント

典型的なのは不動産ファンドで、デフォルトによる米ドル価値の低下によって価格が下がるリスクが高い代表的な金融商品です。

銀行だけでなく証券会社やファンド会社もデフォルトによって倒産の危機に追い込まれることになります。

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日本の金融市場への波及が起こる

米ドルは基軸通貨としてさまざまな資産の価値に影響を与える力があります。債務上限問題によってデフォルトが起こると、基本的に投資家はリスク回避の方向に資産を動かします。

日本の金融市場にも波及効果があることは否めません。日本の米国債保有高は世界1位で、2位の中国に比べて2倍くらいの米国債を保有しています。

デフォルトが起こると米国債を持っていた投資家や金融機関は大損をするので、未然に手放す判断をしなければなりません。金融市場の混乱が起こることは否めません。

まとめ

米国の債務上限問題は一時的に適用を停止する財政責任法案が通過したことで解決したと思われているかもしれません。しかし、債務上限の適用停止は一時しのぎでしかないことは、2013年、2015年にも同じことが起こった事実からも明らかです。

2011年のときには債務上限引き上げがおこなわれましたが、それでも何度も金融不安が繰り返されてきました。米国が債務上限を撤廃しない限りは不安が解消されることはないでしょう。

今後、また債務上限問題によって金融市場が動揺するのは火を見るよりも明らかです。

ポイント

安全な資産を持ちたいなら、絶対的な資産価値のあるモノを持つのがおすすめです。

金はモノとして安定した価値があるので、安全な資産として保有することを検討した方が良いでしょう。